短時間労働者の厚生年金加入拡大で見落とされていること・保険料の計算方法の見直しの必要性

今朝の日経新聞に、「厚生年金のパート適用、2段階で拡大」という記事がありました。

www.nikkei.com

 

私は、社会保険の適用拡大自体には賛成です。

(ここでは、厚生年金・協会けんぽや健康保険組合等の健康保険、いわゆる被用者保険について「社会保険」とよびます)

一家の大黒柱が勤務先で社会保険に入っていたら、年収130万円までの扶養家族は健康保険料が無料(配偶者の場合は年金も無料)なのに対し、

個人事業主で国民健康保険・国民年金であれば扶養家族の概念はなく、健康保険料は世帯全体の所得・人数等で計算、年金保険料もそれぞれに発生する、

というのは、個人レベルで見ると明らかに不平等であるからです。

*実際は、社会保険も事業主負担を合わせると国民健康保険より高くなることもあるのでそこでバランスをとっているという考えもあると思いますが、ここでは個人の負担感を問題にしています。

 

しかし、短時間労働者の厚生年金加入拡大は、今のままの制度だと問題が発生すると思います。

それは、自営業者で副業でパートをやっている人の健康保険料が大幅に安くなってしまい、高齢者の窓口負担や高額療養費にも影響が出る可能性があるという問題です。

(厚生年金加入は、協会けんぽ又は健康保険組合の健康保険加入とセットであるため)

今までなら、そういう人はレアケースなので無視しても影響なかったのだと思いますが、働き方が多様化し、気軽にいろんな仕事ができるようになった現在、検討が必要となっているのではないかと思います。

 

保険料を給与ベースではなく全体の所得ベースでかけるようにする検討も始めるべきなのではないでしょうか?

 

以下、具体的な数字を使って比較してみます。

 

●前提条件●

40歳未満の自営業者が、以下のような働き方をしているとします。

・自営業の所得が500万

・2年契約の派遣社員として週3日(所定労働時間24時間)、時給2,000円で勤務

・派遣会社の所属人数は300人

 

*40歳未満にしたのは介護保険料の影響を無視するため

*自営業所得と勤務日数のバランスが悪いような気がしますが、単価の高い仕事をイメージしていただければ・・・

 

この人の健康保険料について、現行制度と、加入拡大後とで比較してみます。

 

現行制度は↓でご参照ください。

www.nenkin.go.jp

●現行制度●

派遣社員としての収入は月8.8万円以上であり、所定労働時間は20時間を超えていますが、派遣会社の所属人数が300人であるため、常時501人以上の要件に該当しないので社会保険には加入しません。

よって国民健康保険に加入します。(業種や居住地によっては国民健康保険組合という

選択肢もありますがここでは割愛)

国民健康保険は、確定申告をしたすべての所得に対して保険料がかかります。

自営業所得500万円、派遣社員としての給料年収249万6千円(1年を52週として計算)

をもとに、試算した国民健康保険料は、

年額658,873円(月54,906円)となります。

 

高額療養費や、70歳以上の窓口負担割合についても所得をもとに判定されます。

 

↓こちらのサイトで、居住地を東京都中野区にして計算させていただきました。

www.5kuho.com

 

●適用拡大後●

記事では、適用拡大対象の企業の人数規模を2022年10月に101人以上にする、とありましたので、

この例の人は、そこから社会保険に加入することになります。

(国民健康保険は、社会保険に加入したら抜けることになってます)

社会保険の特徴は、「加入事業所の給与をもとに保険料を算定。あとの所得は無視」ということです。

(複数の勤務先で社会保険の加入対象になった場合は合算して保険料を計算します)

つまり、この人は自営業者所得のほうが多いにもかかわらず、健康保険料の計算上自営業者所得は無視され、派遣での給与だけをもとに保険料が計算されることになります。

 

社会保険料の計算は、入社時は契約上の定額給与、その後は原則4月~6月の給与をもとに計算されますが、ここでは、一年を通して月給がかわらないと仮定し、先ほど計算した年収を単純に12で割ったもので保険料を計算します。

249万6千円÷12=208,000円

これを、↓の協会けんぽ東京の保険料率の表(PDF注意)に当てはめて保険料を計算しますと、月額9,900円、年額118,800円となります。

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/h31/ippan4gatsu_2/h31040213tokyo.pdf

高額療養費や、70歳以上75歳未満の窓口負担割合についてもこの月額給与をもとに判定されます。

 

●まとめ●

この例に出した自営業者・副業で派遣社員をやっている人の健康保険料は

現在:年額658,873円(月54,906円)

拡大後:年額118,800円(月9,900円)

 

となり、所得は変わらないのに健康保険料は月額4万5千円も安くなるということになります。

 

これって問題ではないでしょうか・・・・・・・・・・

 

厚生労働省様におかれましては、

この問題についても併せて議論してもらえることを切に願います。

 

 

<余談>

上記の例の人の年金保険料については以下のようになります。

 

現在:月16,410円(国民年金・定額)

拡大後:月18,300円(厚生年金・月額給与をもとに計算)

 

少し上がりますが、その分将来の年金受給額も増えます。