海外への送金にご用心。。。

税務調査で多額の追徴を取られる案件の一つに海外に対する支払いに係る源泉徴収があります。

 

ざっくりいうと、

 

1.日本から海外に対する支払いのうち、日本で生まれた所得についてのものは原則として発生額のうち20%(今は+復興税で20.42%)を源泉徴収(=支払時に差し引いて税務署に納めること)しなければならない。

2.ただし、相手国と日本が租税条約を結んでいる場合は、所得の内容によっては一定の届出書を支払の前日までに税務署に出すことによって源泉徴収税率が軽減、又は免税になる

3.免税になるためには要件があり、その要件についての届出書と居住者証明を2.の届出書と一緒に出さないといけない

 

という仕組みです。

 

ちなみに、「日本で生まれた所得」というのは、例えば

・日本の会社が海外の株主に支払う配当

・日本の会社が海外の人に借りてる金に対して払う利子

・海外の芸能人が日本のイベントに出た時のギャラ

・海外の人が持ってる特許を日本で使って何かしたときの使用料

などのことです。

 

国税庁のサイトの解説はこちら↓

No.2884 源泉徴収義務者・源泉徴収の税率|国税庁

 

ご覧のとおり話もややこしいし手続きも面倒なので、この規定をご存じない人が多いです。

 

ちなみに、税務調査で源泉徴収もれを指摘されたらどういうことが起こるのか?を具体的な例でお話ししてみます。

(話がややこしくなるので今回の例では租税条約については無視するためH28.6時点では日本との租税条約が発効していない台湾を例にあげます)

***H29.1以降は台湾と租税取決め(租税条約のようなもの)を締結しましたのでそれ以降に支払義務があるものは使用料の源泉税率軽減は可能です!!詳しくは当記事の末尾をご覧ください***

 

例:平成28年6月、ソフトウェア会社A社が台湾のB社の持っている特許を使わせてもらって物を作ることになり、使用料として平成28年6/30に100万円払うことになった。A社は源泉徴収については知らなかったので100万円をそのまま送金した。

 

 

上記の話が税務調査で見つかると、

「使用料が100万円であれば、そのうちの20.42%を源泉徴収して税務署に支払う義務があります。20万4千200円を税務署に納めたうえでその分はB社から取り立ててください」

と言われます。延滞税と加算税もつきますので、一般的にはB社から取り立てる前に先に税務署に納めます。

 

納めた時の仕訳は以下のようになります。

未収入金 / 預り金 204,200円 *後で取り立てるから一旦未収入金を計上

預り金  / 現金預金 204,200円

 

それで、B社がすぐお金を返してくれたら一件落着なのですが、

そうはいかない場合も多々あります。

源泉徴収制度は他の国にもあるので、制度自体は理解していただけるのですが、

契約書に源泉税の取り扱いを記載していない場合だと、「手取りが100万のつもりで契約しました」という主張をされてもめる場合があります。

 

交渉の末、やっぱりB社には請求できないので先方の主張を飲んであきらめよう、となったらどうなるか?

そうすると、あきらめた204,200円については使用料の上乗せという扱いになります。

 

使用料の上乗せ、つまりこれについても源泉徴収が必要ということです。

でもその分の源泉徴収もA社が負担しないといけない、つまり使用料の上乗せ・・・というループになるので、

「源泉徴収後の金額」が204,200円になるように逆算して使用料の上乗せ部分を決定します。

204,200円÷(1-20.42%)=256,597円

仕訳は

 

特許権使用料 256,597円 / 未収入金 204,200円

             / 預り金  52,397円

預り金                       / 現金預金 52,397円

 

 

となります。

 

最初は100万円の買い物だったはずが、25万円強+延滞税加算税、も余計にお金が出て行ってしまう結論になりました。

 

というわけで、私はお客さま方にはとりあえず最初に、

「海外に送金するときは源泉徴収が必要な時があるから必ず事前に相談してくださいね!ものによっては時間かかるから早めにお願いします」

というようにしています。

時にはこれによって契約金額が変わってしまう場合もありますからね。。。

 

この海外送金の源泉徴収については、税理士でも時々知らない人がいて、前任の先生の処理をみてヒィィと思う時もあります。。。とはいえ同業者Disはするべきではないので、お客さんから「前の先生はそんなこと言わなかった」とブツブツ言われると対応に困っちゃいます・・・

でももちろん私も偉そうなことは言えません。

この仕事に就いたばっかりの無資格の時、この話を中途半端にしか理解しておらず、2.の届出書を出さなくても租税条約に定められた軽減税率が使えると思い込んでいて、届出出してないくせに10%しか引かなかったことありました。。税務調査では見逃され多分もう時効ですが今でも思い出しては反省しています。

 

*2017.11追記:2017年1月に台湾とは租税条約に相当する租税取決めが発効されましたので一定の手続きを行ったら源泉税率が軽減されることになりました。

詳しくは↓をご参照ください。書類が他国とは違うので注意!!

外国居住者等所得相互免除法第2章関係(台湾関係)|国税庁